「銀橋」(中山可穂著)~色々「微妙」がある本~
中山可穂著、宝塚シリーズ「男役」「娘役」の第3弾「銀橋」
(発行:株式会社KADOKAWA)
前2作は、好きでした。特に「娘役」。
シリーズ化すると、面白くなくなるパターン多いけど、第2弾「娘役」は気に入った。
著者も、「男役」を書いた時、シリーズ化を考えているようでした。
「雪組篇、花組篇、星組篇、専科篇とか、色々アイデアはありまして、早く書きたくて書きたくてうずうずしています。(略)今回の『男役』が売れないとシリーズ化の企画は通らないので、続きを読みたい方は周囲のヅカファンにご宣伝ください(笑)。」
(一部引用:WEB本の雑誌 > 作家の読書道 「第158回:中山可穂さん」より)
第158回:中山可穂さんその5「執筆生活&新作のこと」 - 作家の読書道 | WEB本の雑誌
(2015年3月18日更新)
書店で「銀橋」を見つけ、前2作が文庫本になってるので、売れてシリーズ化した!?
パラ読みすると、今回は「専科」を焦点に充ててる!!
と思い、楽しみに図書館で予約しました。
(買わない辺り・・すみません)
発売時期と、図書館から届いた時期(今)のズレが悪かった。
そして、パラ読みと熟読では、全然違う。
(正確には熟読はしてない・・・理由は後述)
一言一句で気になる部分発見・・・印象が変わりました。
舞台じゃなくても、本でも、読む時期や、深読み度合いで印象は変わるもの。
結論として、この「銀橋」・・・微妙。
あとがきに、「このシリーズはこれで終了」と書いてある。
・・・そうなるだろうなぁ、と著者には失礼ですが、同意。
あとがきで著者は、きちんと述べてます。
「この小説は100%フィクション。登場人物に特定のモデルはない。この小説で描かれる宝塚歌劇団は作者のイマジネーションおよび妄想の産物であり、実態とはかけ離れているかもしれないことを明記しておきます。」(概要)
この著者、「ヅカファン」ではないです。
ただ、「演劇に携わっていた経験もある方」で、「演劇ジャンル」には興味はあって、すごく詳しそう。
興味のある分野を、調べたら、掘り下げは深くなり、細かい点も鋭く分析できるので、「宝塚の舞台」への関心と共感度は高いと思われます。
実際、舞台に携わっていた人でしか分からなさそうな舞台人の葛藤あたりに、リアリティがあります。
美化され過ぎな「宝塚の世界」と、舞台裏の過酷な現実のバランスが良かったのかも。
というわけで、「男役」「娘役」は好きです。
美化されるのは、より「宝塚が夢の世界」に見えるのでOK。
しかし、この方、「誰に」取材したの!?
という位、実際の「宝塚」にありそうな描写が散りばめられてます。
それが、今回、個人的に裏目に出たと思ったのが3作目「銀橋」
主人公は2人のジェンヌ。同時並行で進む話。
同じく星組から異動で来た超若手ホープ娘役と初対面で、コンビを組む話
②専科の大御所人物の、究極の演技に魅せられ、憧れて、その姿勢に学んで成長する話
微妙な2点。
・専科についての描写で気になる言葉(「本専科」と「スター専科」)
・宙組のイメージが、扱いの悪い組に見えかねない描写で気になる言葉
「落下傘上等の組ですから。」
「宙組は漫画原作とかゲーム原作とかぶっ飛んだ系統ばっかり続いてて、いいかげん飽き飽きしてたんや。(略)(異動で美男美女の二人が来てくれて)やっと宝塚らしいラブロマンスができるってみんな大喜びですわ。」(著作権につき、概要だけ引用)
などなど。
もちろん、前作で感動した著者のシリーズ作品、良い事、鋭い指摘も健在です。
「ただならぬコーラス力、長身率」.etc
心に留めておきたい宝塚の魅力を表す「名言」「名文」もあります。
ただ、その長所より、インパクトが大きすぎる「微妙な2点」。
さらに、タイミングが悪い「愛月さん異動発表」後に届いた本。
さらっと、読み飛ばせないことも・・・ないけれど、
ここまで読後感がイマイチにならなかったと思います。
著者は、劇団に取材されていないだろうし、独自の取材と、客観的に見たイメージから書かれた作品。
前、2作品では「舞台人」と「宝塚」を尊敬して、愛を感じました。
あとがきには、さらに、
「寛大なお心でツッコミどころを笑い飛ばして、ご贔屓に脳内変換して楽しんでください」
発売直後に読めば、時期的に、まぁギリOK!?(微妙かな・・)
前2作より、少し、夢々しさから、現実味と笑いで親近感が加わった分、非ヅカファンには、読みやすそう。
ただ、「自分を貶めて笑いを取る」系の笑いを、作中でジェンヌさんが語られてます。
実在の名前(「宝塚歌劇団」「宙組」)を使用しているだけに、微妙。
「熟読してない」のは、なんだか、読んでも、夢の世界に浸れず、正直心が痛くなる。
「男役」「娘役」は、濃すぎたので、親近感を持たせたかったのか、取材する内に、内情!?も、面白い方向で踏み込んで書きたくなったのかは、著者じゃないので分からないです。
ただ、前2作と印象が変わってしまった感のある、「銀橋」。
インパクトの箇所がなければ、美しく、3部作は統一感があっただけに、締まりが悪いシリーズ最終巻となってしまいました。
宝塚を題材に扱った作品で読んだ中では、異色な感じで、良かったです。
「銀橋」も「専科」に焦点を充てる視点までは良かったのに、惜しい作品。
あとがきで、このシリーズは終わり、とあらかじめ書かれてある辺りに、出版前に、ツッコミがあったのかな~?なんて、考えてしまいました。
ただ、舞台を愛する著者の名言、名文は、舞台に携わった経験のある人にしか書けなさそうな点からは、リアリティがあり、印象に残りました。
個人的な感想なのでご容赦ください。
さいたまんぬ